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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)6623号 判決

原告 株式会社森市商店

右代表者代表取締役 森由五郎

原告 末広不動産株式会社

右代表者代表取締役 山口正達

右両名訴訟代理人弁護士 円山潔

被告 有限会社ハトヤ

右代表者代表取締役 望月明儀

右訴訟代理人弁護士 田辺恒貞

被告 功刀泰子

被告 東海林智子

右両名訴訟代理人弁護士 青柳洋

主文

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、被告功刀が被告東海林の代理人をもかねて昭和三一年一〇月三日原告末広不動産に対し、同被告両名共有(各二分の一の持分)にかかる本件土地建物の売却方仲介を依頼し、同原告がこれを承諾したこと、被告ハトヤが、昭和三一年一〇月四日原告森市商店に対し、本件土地建物の買受方仲介を依頼し、同原告がこれを承諾したこと、以上はそれぞれ原告らと被告功刀、同東海林との間、原告らと被告ハトヤとの間において争いがなく、原告らが、被告らの右依頼に基き、被告ハトヤと被告功刀、同東海林の間に立つて本件土地建物の売買を仲介斡旋したこと、その後被告らが、昭和三一年一二月一〇日直接取引により、被告功刀、同東海林は被告ハトヤに対し、本件土地建物を代金六、四〇〇、〇〇〇円で売渡す旨の売買契約を締結したこと、なお原告らが、いずれも宅地建物の取引の仲介を業とするものであること、以上は、それぞれ両当事者間において争いがない。

二、原告らは、被告らが昭和三一年一二月一〇日締結した右売買契約は、原告らが被告らの依頼に基き仲介斡旋に従事中、原告らを故意に除外して、直接取引したものであると主張し、被告らは、右売買契約締結以前すでに被告らから原告らに対し、本件土地建物売買の仲介依頼を解除していたもので、原告らが仲介斡旋に従事中、故意に原告らを除外して、直接取引をしたものではないと主張するので、この点について判断する。

ところで、右原告主張については、これを認めることのできる何らの証拠はなく、かえつて、成立に争いのない甲第五号証の一、二、乙第一号証の一ないし三、丙第一、二号証、被告ハトヤ代表者望月明儀尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第二号証、証人功刀泰碩、同三俣啓一の各証言、原告末広不動産代表者山口正達、原告森市商店代表者森由五郎、被告ハトヤ代表者望月明儀、被告東海林智子本人各尋問の結果を綜合すると、被告ハトヤ代表者望月明儀はかねて、同被告方店舗裏側に隣接する本件土地建物の買受を希望し、昭和三一年九月頃にも、被告東海林に対し、その買受方を申入れたのであるが、被告東海林側では申入代金額その他に不満があつたので確答を与えないでいたこと、しかし、その頃から被告功刀および同東海林は、家庭の事情等のため、年内中に本件家屋を売却しようと考えていたところ、同年一〇月初め頃広く買手を求めるため、不動産仲介業者に売却方仲介を依頼することに決し、原告末広不動産代表者山口正達に対し、代金七、五〇〇、〇〇〇円ないし八、〇〇〇、〇〇〇円で売却されることを希望して、本件土地建物の売却方仲介を依頼したのであるが、一方、これを知つた被告ハトヤ代表者望月明儀は、早速買受方を希望し、原告森市商店店員風見静郎に対し、買受代金六、〇〇〇、〇〇〇円ないし六、五〇〇、〇〇〇円位を希望して、本件土地建物の買受方仲介を依頼し、なお、その際買受資金調達のため、同被告所有千代田区神田多町二丁目四番地所在宅地建物の売却方斡旋を依頼したこと、そこで、右山口正達、風見静郎は、双方申出の売買代金額を一致させるべく相互に連絡をとりながら仲介斡旋を始め、まず、山口正達において、被告東海林に対し、特に望月明儀の依頼によつてその名を秘し、六、五〇〇、〇〇〇円の買主がある旨を伝え売却価格につき再考を促し、その後数回にわたつて交渉をしたのであるが、被告功刀、同東海林側では、これに難色を示したので、その斡旋は進行しなくなつたこと、ところが、その後昭和三一年一一月下旬頃被告東海林、同功刀は、原告らの右仲介斡旋が進行せず、他に希望価格に応ずるような適当な買主も現われないので、年内中に本件土地建物を売却することを一応断念することとし、山口正達に対し、本件土地建物の売却を取り止める旨を申入れたのであるが、一方、望月明儀も、その頃風見静郎より、本件土地建物の買受について最終的な返答を求められるにおよび、当時前記神田多町の宅地建物が売却される見込もないため、本件土地建物に未練を残しつつも、その買受を断念せざるを得ず、その旨風見静郎に返答したこと、しかし、望月明儀は、本件土地建物の入手をあきらめきれず、その後間もなく、直接被告東海林、同功刀に対し、改めて買受方を懇請したところ、同人らも代金額支払方法によつては、これに応ずる意向を示したので、同人らと交渉を続ける一方、買受資金調達のため、自ら前記神田多町の宅地建物の売却に努力した結果間もなく売却の見込みが立ち、他方、被告東海林、同功刀も、元来年内に処分したい意向であり、この際処分する方が得策であると考えたので、遂に望月明儀の申入代金額支払方法を承諾して、ここに本件売買契約が成立したこと、以上の事実が認められる。

右認定事実によれば、本件売買契約締結前、被告らの原告らに対する本件仲介斡旋の依頼はそれぞれ正当に解除されたというべきであつて、しかも、右解除が、原告らを除外して直接取引を成立させるため、故意になされたものでなく、したがつてまた、その後成立した本件売買契約も、被告らが原告らを故意に除外して直接取引をしたものでないことがあきらかである。したがつて、この点に関する原告らの主張は理由がない。

三、原告らは、さらに原告らが被告らの依頼によつてした本件土地建物に関する仲介斡旋の行為は、原告らの営業の範囲内で被告らのためにしたものであるから、商法五一二条により、それぞれ依頼を受けた被告らに対し、相当の報酬を請求することができると主張する。

しかし、不動産取引の仲介を引受ける契約は、他人間の取引契約の媒介を引受ける契約すなわち仲立契約であつて、仲立契約においては、媒介に必要な行為をしただけでは、当然に報酬を請求しうるものではなく、これを請求しうるためには、その媒介に基き、取引契約が成立したことが必要であつて、このことは、商行為である取引契約の媒介を引受けるところのいわゆる商事仲立においてはもちろんであるが、通常の不動産取引のような商行為でない取引契約の媒介を引受けるところのいわゆる民事仲立においても同様であると解せられる。けだし、わが民法においては、民事仲立(ただし営業的商行為である。商法五〇二条一一号)につき、独逸民法のように仲立人の媒介によつて契約が成立した場合にのみ仲立料を請求しうる旨の規定がないけれども、商事仲立に関する商法五五〇条、五四六条の規定は、右の趣旨を当然の前提としているものと解せられ(同条は仲立人の媒介業務の誠実正確を期するため、報酬を請求しうる時期を単に契約成立のときとせず、契約書の交付、または交換のときまで遅らせているものである)、仲立営業の本質に照らして、民事仲立につき、この点を特に商事仲立と別異に解すべき実質的根拠がないから、右商法五五〇条、五四六条の類推により、前記のように解するのが相当である。したがつて、不動産仲介業者が仲介により報酬を請求しうるためには、その仲介にもとづいて取引契約が成立したこと、したがつてまた、仲介と契約の成立との間に因果関係があることを必要とするから不動産仲介業者が或取引の仲介依頼を受けて仲介に従事しその後右仲介を受けた当事者間においてその取引契約が成立した場合にあつても、その成立した取引契約が右仲介業者の仲介によつて成立したものといえないときには、それが如何なる事由によるにせよ、特にかかる場合においても、その仲介に対する報酬を支払うべき特約慣習その他特別の事情があるときは格別、そうでない場合は、右仲介に対する報酬を請求することができないものといわなければならない。

これを本件についてみると、被告らの間に成立した売買契約が原告らの仲介斡旋によつて成立せしめられたことを認めるべき証拠はなく、かえつて、前記認定のように右売買契約が被告らの原告らに対する仲介依頼の正当に解除された後、直接取引により成立したものである以上、右売買契約は、原告らの右仲介斡旋にもとづいて成立したものといえないことあきらかであつて、特に、原告らの右仲介斡旋に対し、報酬を支払うべき特約慣習その他の特別事情を認めるべき証拠もない。したがつて、この点に関する原告ら主張も理由がない。

四、以上のとおり、原告主張はいずれも理由がないから、これを前提とする原告請求は、その他の点を判断するまでもなく、失当として棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中宗雄 裁判官 中田秀慧 篠原幾馬)

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